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江戸凧

小野さんの凧は完璧に揚がります。会った瞬間からバリバリの江戸の人。余計な事は言わず、勢いがあり、見えない気遣いがあって、どこか少し怖い感じです。工房には竹が並び、和紙が積まれていて、精密な工場のように整然としています。小野さんは3代目の江戸凧職人。2回目に訪れたときは近くの河川敷に連れて行かれ、凧揚げ講習。5分としない間に凧は天高く小さくなりました。伝統工芸品の「和紙」に実用的に優れたものがほとんど無くなってしまったのと同様に、凧も絵付けが高額になったり、工芸品になってしまうと揚げることがないため、飾って眺めるだけの凧が増えています。そんな近頃では小野さんの凧の貴重さがいや増します。そして、東京北区にある王子稲荷の祭礼の屋台で売られる「火防の凧(ひぶせのたこ)」も小野さんが納めています。江戸時代の江戸では密集した住宅街で火事が頻繁でした。火事は風が煽ります、凧は『風を切る』ことから、火事を防ぐ象徴とされました。和紙に木版刷り、骨組みの竹を削るところから全て小野さんがおこなっています。明治時代の木版が最近見つかり、これを彫った初代は木型の名手、二代目は絵付けの名手であったそうです。初代、二代目は多い時は年間、3万枚の凧をつくっていたとか。この睨みつけるようなお稲荷さんを台所の壁に貼っておくと毎日自然と火の用心になりそうです。駄洒落と知恵と偶然の必然のように思えるのです。
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