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三春張子「巳年」デッドストック

アトリエガング立ち上げの12年前に初めて仕入れた玩具が三春・橋本広司さんの巳年の張り子。はじめて会った職人さんが広司さんとそのお母さんで、出会ったことでアトリエガングを始めたような気がします。江戸時代から続くお屋敷は黒々とした高い天井で、金の嘴が光る真っ黒な鴉天狗の面がかけられています。3月11日に東北地震が起きた時、家を飛び出し、自分が嫁入りの時に植えた桜の木に飛びついた。お母さんが話してくれました。お母さんの職歴を伺うと80年。「一番人気の干支はなんですか」「虎と辰だよ、その前の年はとても忙しい」辰年用の和紙を貼るその手はとてもツルツルでした。この時の出会いが最初で最後でしたが、絵付けを担う広司さんのことを、息子はなんでもできちゃうから心配していないとおっしゃっていたお母さんの姿が今でも鮮明に浮かんできます。仕入れた巳年の張り子はお母さんの伝言通り、あまり人気がなく、最も在庫が余っている干支張り子です。昔ながらの和紙・膠(にかわ)・胡粉・植物染料といった天然物質から作られているため、経年変化である茶の斑点が出てきています。新しい商品、綺麗な商品、異常な価値の骨董品、価値の与えられない見向きもされないものたち、一瞬大スターになるものたち、そのどれでもない特別な表情をもった彼らは東北震災をきっかけにアトリエガングにやってきて、12年間、根底の礎を保ち続けてくれていたのかもしれない。
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